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―――全てを失って、最期に残るものは、一体何だろう?

「もう、大丈夫だな」
そう言い残して、一志は藤真の住むマンションを後にした。元々藤真の『保護者』として一緒に暮らしていたのだから、その理由の無くなった今一緒に暮らす意味は無かった。
「どうしても、出ていくのか?」
そう引き止める藤真に一志は苦笑混じりの笑みで。
「花形に誤解されたら、困るだろう?」
とからかい半分に言って、このマンションから出て行った。子供の時間を終わらせる為に。そして、藤真も。もう引き止めは、しなかった。それがどんなに残酷な事か、判っていたから。

―――幸せに、なりたかった。本当に、幸せになりたかった。

突然の車のクラクションに、花形は振り返った。
「―――え………」
そこには見覚えのある、否忘れたくても忘れられない黒のランボルギーニの車体が有った。そして。
「おはよう、花形透君だよね」
大人独特の笑みを浮かべながら、その人物は現れる。忘れたくても、忘れない。あの時の『男』。藤真を連れて行った、あの時の。
「君に話が有るんだが、構わないかい?」
「生憎、俺はこれから学校へ行くんですけれど」
「―――健司の事でも、かい?」
口元だけで微笑いながら、まるで楽しむかのように花形を見つめた。それは大人の余裕を見せつけているようで、花形は何となく気に入らなかった。
「判りました、聞きましょう」
そう花形は答えると、導かれるままに車内へ入って行った。

色々な事を、考えた。今までの自分の事、一志の事、そして花形の事。沢山、考えた。
自分に『友情』をくれた一志の想いも。彼が何を言いたかったのかも。―――全部。
そして一つだけ、答えが出た。たった一つだけ。
でもそれが何よりも、大事だと自分は判ったから。だから。
―――伝えようと、思う。嘘偽りの無いこの想いを。

「―――あれは、私の息子だ」
「……え?………」
突然告げられた事実に、少なからず花形は狼狽する。それは予測する事すら、不可能な事だった。目の前の人物はどう見ても三十代前半と言った所だ。普通『親子』と考えるには余りにも若すぎる。
「私が、十五才の時の子供だ。不可能では無いだろう?」
確かに言われてみれば、不可能では無い。けれども。
「あの時は大変だったさ。私は一人息子だったから、親父の会社を継がなければならなかったし…大会社の跡取り息子が、こんな失態を犯すなんてね……」
くすりと口元だけで笑いながら、彼はまるで他人事のように言った。それは社会に生きる大人の顔だった。
「下ろす事も、出来たでしょう?」
不意に出た疑問を、花形は口にしてみた。けれども彼はそんな花形にまた、口元だけで微笑って。
「いや、気付いた時はあいつはもう五ヵ月だった。下ろすには遅すぎた」
「―――」
「おまけに身体も余り丈夫で無くてな。あれを産んですぐに死んだ」
「……え?………」
「だから健司は、産まれてすぐに父親の知り合いに預けられたんだ。それがお前も知っているだろうが、一志の家だ」
「…長谷川の?………」
「だからあれと一志は兄弟みたいなものさ。御陰で、実の父親にすら懐かなかったのに、一志だけには懐いている」
言われてみて思い返せば、それを納得させる場面が数多くあった。藤真は無条件に、一志を信用していた。まるで彼だけが、自分を判ってくれるとでも言うように。
「だから驚いたよ、君には。一志以外に健司が懐くなんてね」
「……俺、に?………」
「私は忘れていたよ。あの子が未だ十五才の子供だったって事を。あれは私の前では、何時も大人の仮面を被るからね。だから、知らなかった。あんな笑顔が出来るんだって事をね」
年相応の、無邪気な笑顔。多分それは藤真が昔置いて来てしまった、本当の顔。でも彼は花形の前でそれを少しづつ取り戻している。
「健司は、君の事が好きだよ。本当にね」
傷つく事すら幼い頃に、捨ててしまった彼が見せたあの瞳。まるで捨てられた子猫のような傷ついた瞳。あの瞳を花形に向けた時から、全ての答えはそこに有ったから。
「―――でも何で、そんな事を俺に言うんですか?」
花形の問いに、彼は『本物』の笑みを浮かべて。
「私は親としてあいつには、何もしてやれなかったからね。せめて、何か一つあれの為にしてやりたかったんだ」
―――まるで子供のような顔でそう、言った。

初めて彼を見た時の衝撃を、今でも自分は忘れない。
まるで全身を稲妻で貫かれたような感覚。
それは今まで知らなかった、想いだったから。
だからやばいと、思った。彼に近づく事は。
けれども近づかずには、いられなかった。
彼と言葉を交わしてみたくて。彼に触れてみたくて。
その瞳に自分を映して、貰いたくて。
――――多分それを人は『恋』と呼ぶのだろう。

花形が学校へ戻った頃には、もう既に昼休みも終わって午後の授業が始まっていた。
「―――花形………」
「……藤真………」
今更授業を受ける気もしなくてそのまま屋上へと向かった花形を迎えたのは、少しだけ戸惑った表情の藤真だった。
「お前、授業は?」
「さぼっちゃった。何だか、ここに居れば花形に逢える気がして」
何時ものにっこりとした笑顔で、藤真はそう答えた。何故、自分は気がつかなかったのだろうか?藤真は何時も、この笑顔を自分に向けていた事を。造り物でも何でも無い、ちゃんとした藤真の本当の笑顔を。
「でも本当に逢えるとは、思わなかった」
まるで無邪気な子供のような顔を向けながら、藤真は花形の前に立つ。そうして、その大きな瞳で花形を見上げて。
「俺って、ラッキーだな」
本当に嬉しそうに微笑うと、藤真はゆっくりと花形の胸へと落ちてゆく。花形はそれをそっと抱き止めてやると。
「……俺も、ラッキーだ………」
そう一言告げると、拒まない藤真の唇に自ら口付けた。それはとても、甘かった。そして。
「―――好きだ、藤真」
思いの丈を込めて花形は告げる。そんな花形の言葉に藤真は、柔らかく微笑った。
――――それが、全ての答えだった。

「…本当は…一目惚れだったんだ………」
「―――え?」
藤真は花形の腕に包まれながら、安心したようにぽつりと呟いた。その言葉一つ一つを花形は拾い上げてやる。
「…初めてお前を見た時…俺は『こいつとバスケがしたい』って思ったんだ………」
「……藤真………」
「こいつと一緒に夢を共有出来たらいいなって、思ったんだ。他の誰でも無く、お前と」
見上げてくる藤真の瞳がひどく真剣で、そして真っ直ぐだった。だから花形はその全てを受け止めてやる。藤真の『本物』を、全て。
「…お前が…欲しかったんだ…俺は………」
欲しかった、純粋に。誰にも渡したくはなかった。気まぐれで見に言ったバレーの試合を見た時、真先に瞳に飛び込んで来た彼のプレーが姿が全てが、瞳から離れなくて。そして、独りいじめしたかった。こんなに綺麗で力強いプレーをする人を藤真は他に知らなかったから。例えそれが違うスポーツだとしても。藤真が魅かれたのは、花形の本質的な部分だったから。だから、思った。彼とバスケがしてみたいと。彼がゴールポストにボールを入れる瞬間を、見てみたいと。そして藤真はその欲求を止める事が出来なかった。
―――― 一緒に『夢』を、共有したいと。
「…やっぱ、俺ってすげー我が儘だよな……」
ただ同じ時間を分け合いたかった。同じ事を感じて、同じ事を思いたかった。一緒にいたかった。ただ、それだけだった。
「ああ、お前は我が儘だ。おまけに自分勝手だし、自己中と来ている。でも……」
今にもむくれそうな藤真に、花形はひどく優しく微笑い掛けると。
「俺はお前のそんな所が、大好きだ」
そう言って、頬に額に、唇に。花形は藤真の顔にキスの雨を降らす。その度に、藤真の瞼は震えた。
「お前の我が儘は、自分の気持ちに正直だからだ。だから、皆お前の我が儘を許してしまうんだ。俺もな。お前の我が儘なら、何だって聞いてやる」
「……本当に?………」
未だ少しだけ疑うような表情で、藤真は尋ねてくる。本当に、こんな所は子供なのだ。いや、違う。藤真は花形だから見せるのだ。自分の本当の顔を。
「本当だ、何だってしてやる」
だから、自分もその全てに答えよう。藤真が望むだけ、藤真が欲しいだけ。幾らでも。
「……じゃあ…ずっと、俺の傍にいてれる?………」
「ああ、いてやる。お前が望むだけ」
「……ずっと一緒に、バスケをしてくれる?……」
「ああ、しよう。一緒に勝利を目指そう」
「……じゃあ……花形………」
「―――何だ?」
「…俺を、好きになってくれる?………」
藤真の言葉に今度はこっちが面食らってしまう。自分はこんなにも彼に想いを告げたと言うのに。未だ、藤真は疑うのだから。でも。
「好きだよ、藤真」
でもそれは仕方無い事なのかもしれない。彼の今までを思えば。こうやって何度も確かめてしまうのも。だから。
「お前が、好きだ」
だから、花形は言ってやる。何度でも、何度でも。藤真が納得するまで。それだけの余裕も時間も、自分は持っているのだから。

―――全てを失っても、自分にはこの想いが残るから。だから、もう恐くない。

「畜生ー花形の野郎っ。何が自分は藤真サン目当てじゃないだっ。この大嘘つきめ」
中井は窓の外から見える一際目立つツーショットに、思いっきし毒づいてやる。けれどもそれは実に虚しい行為でしか無かったが。
「…あーあ、あんなに楽しそうな顔しちゃって……」
藤真に関しての噂は、人を選ばない。故にこの花形と藤真のツーショットは、一日で学校中を巡る事となった。が、しかし。
「……藤真サンってば…やっぱり花形の事好きだったのね………」
二人の世界を完全に作り上げてしまった二人には、所詮他人はあくまでも他人だった。

「あーあ、あの男お嬢さんを持って行きやがった」
高野は楽しそうに話している二人を余所に、深い溜め息を付きながら思いっきしぼやいてやった。
「まあ、しょーがないだろう。あれで藤真は案外面食いだから」
「でもよー永野、悔しいと思わん?あんな新参者に」
「それを言ってもしょうがないだろう。それに長谷川のお許しが出てるんだから」
永野はそう言うと今まで無言だった、一志の方へと振り返る。そんな永野に、一志は微かに微笑って。
「藤真が、決めたんだ。諦めな」
―――そう、一言言った。その言葉に二人は納得するしかなかったのだった。

「花形、俺さー」
藤真はあれからよく、微笑うようになったと思う。元々にこにこ人当たりのよい顔をしていたのだが、それあくまでも表面的なものでしか無かった。けれども今の藤真は、本当に微笑っているのだ。自分の心から。
「何だ?」
こうして少しづつ藤真は、知ってゆけばよい。感情を表に出す事を。無意識に作った演技では無く、頃の底から思う事を。
「本当はね、俺ずっと……」
藤真は花形だけに聞こえるように、一言耳元でそっと囁いた。
その言葉に、花形は。
―――何よりも優しい笑顔を、藤真にくれた。


「――――ずっとお前に、憧れていたんだよ………」

 

END

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