星屑の涙・6

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何時しか言える日が、来るのだろうか?何時しかこの想いを伝えられる日が。
この胸に宿る、ただひとつの。ただひとつの、大切な想いを。この、想いを。


―――貴方に…告げられる日が…来るのだろうか?


子供になろうと思った。子供になるんだって。毎日笑いながら、無邪気に過ごしてゆくんだって。今まであたしが出来なかった事を、少しずつ取り返してゆくんだって。だから少しみっともないけれど、子供になるんだってそう決めていた。
貴方があたしの『おとうさん』になってくれるって言ったから。そう言ってくれたから。あたしを本当の娘のように大事にしてくれたから。だからあたし。あたし毎日笑って楽しそうに過ごすんだって。過ごすんだって、決めたの。
だって喜んでほしかったから。貴方に喜んでほしかったから。あたしが楽しそうにしてると、貴方の目が細められるの。細められて優しく微笑ってくれるの。あたしその顔が。その顔が、大好きだから。本当に本当に、大好きだから。だから貴方の『娘』になるんだって、そう決めた。

だから閉じ込めた。必死になって、閉じ込めた。

内側から溢れてくる想い。止められない想い。でも必死で閉じ込めた。娘としてあたしを大切にしてくれる貴方には、この感情は必要のないものだから。この感情は、迷惑でしかならないから。だから必死で、堪えた。
そばにいたかったから。どんな形でもいい。どんな理由でもいい。あたしは貴方のそばに、いたかったから。
娘としてあたしを望むなら、ずっと貴方の娘でいる。貴方が微笑ってくれるなら、あたしはどんな事でもする。娘で、いい。娘でいいの。
それでも貴方があたしを大切に想ってくれる事は、貴方が愛してくれる事は変わらないから。
だからあたし。あたし、無邪気な子供でいる。貴方に迷惑がかからないように…子供でいるから。


だからずっと。ずっとそばにおいて。
あたしのことを、捨てないで。捨て、ないで。
貴方が誰を愛しても、誰のものでもいいから。
だからあたしを娘として、そばに。


――――ずっとそばに…おいてください……



「ダグラス将軍…あちらのお嬢さんは?」
先にあたしに気付いたのは、あの人だった。綺麗な碧色の瞳が少しだけ驚いたように見開かれ、次の瞬間には何よりも綺麗な笑顔でそう言った。
「ララムだ…私の娘だ。おいでララム」
綺麗な笑顔。大人の、女の人の笑顔。あたしが幾ら頑張っても出来ないもの。それを自然と出来る人。自然に、出来る人。貴方の隣で、出来る人。
「初めまして、ララムちゃん。私はセシリアよろしくね」
近付いて貴方の隣に立ってあたしはセシリアさんを見上げた。本当に綺麗な人だった。綺麗な大人の人だった。綺麗過ぎて、あたしは。あたしは…哀しくなった。
「ララムでーす。よろしくお願いしまーす」
けれどもあたしは笑った。わざと馬鹿な女の子を演じた。ばれないように、気付かれないように。少しでも心の中の想いが見破られたりしないように。
「ふふ、元気なお嬢さんね」
差し出された白く細い指をあたしは握り返した。しなやかで柔らかい指先。あかぎれだらけの汚いあたしの手とは違う…そんな指先だった。
「…あら…貴方……」
手を重ねた瞬間にはっとしたようにセシリアさんはあたしを見つめた。あたしは咄嗟に手を引っ込めて、そしてまた笑った。馬鹿みたいに楽しそうに笑った。
「あたしおてんばだから、よく怪我したりするんですよ」
「怪我?でも貴方の手は……」
「すまんが、セシリア。ララムの言う通りだ。少しお転婆だが…誰よりも優しい子だ」
その先を告げようとしたセシリアさんに、貴方は言葉を遮ってくれた。その大きな身体であたしの身体を隠してくれた。気付いて、いたんだろう。貴方は気付いていたんだろう。あたしの身体が微かに震えていた事を。楽しそうに笑いながらも、目が…笑っていなかった事を。
「将軍がおっしゃるのでしたら…そうなのですね」
そんな貴方の言葉にセシリアさんは優しく微笑った。あたしと貴方に向かって、微笑った。この瞬間にあたしは、気がついた。この人は…お義父さまが好きなのだろう、と……。
けれどもあたしにはどうにも出来なかった。あたしはただの『娘』だから。こんな綺麗な人にあたしが叶うわけがない。こんな素敵な人に、あたしが叶うわけがない。
けれども貴方はあたしを庇って、くれた。庇って、くれた。あたしはその大きな背中の後ろで必死になって泣きそうになる自分を堪えていた。



「あたし、遊びにいってくれるね」
その場にいるのが耐えきれず、あたしは笑いながら言った。
「あ、ララム……」
呼び止める貴方の声を遮るように、あたしは駆け出した。


…だってこれ以上…ふたりを見たく…なかったから……



私は何時しかこの将軍に尊敬以上の気持ちを抱いているのに気が付いていた。けれども私にとって貴方は何時までも部下でしかないのだろう。
「可愛らしいお嬢さんですね」
血の繋がらない娘だと言っていた。どういった経緯で娘として引き取ったかは分からない。分からないけれど、でも何よりも彼女を大切にしている事だけは伝わった。
「ああ、可愛い娘だ…この年になって娘を持つとは思わなかったが」
それが親子の絆なのかもっと別なものなのかは分からない。けれどもひどく羨ましかった。羨ましかった。今まで何よりも国と王を大切にし、その為だけに生きてきた人。そんな貴方の『私』の部分が自然に曝け出させる相手に。それが私にとって何よりも。
「大事な娘だ…わしにとっては」
何よりも羨ましかった。こんな風に貴方が優しい顔で、目を細めて笑うのを私は見た事がなかったから。
「――――羨ましいですわ……」
「セシリア?」
「…将軍にそのように気にかけていただける存在が…私には羨ましいですわ」
それがどんな絆であろうとも、私には太刀打ちできないものだと…気が付いたから。



「…お義父さま……」
部屋に戻りあたしはベッドの上に雪崩こむように、寝転がった。枕に顔を埋め、必死で溢れてくるものを堪えた。必死で、堪えた。
「…お義父さま…あたし……」
何時しか貴方の隣にあの人がいるのが当たり前になるのだろうか?貴方の隣にあの人が自然に微笑っている日が、来るのだろうか?そうしたら。そうしたら、あたしは?
「…あたしは…いらない?……」
出てきた言葉を必死に否定した。貴方はそんな人じゃない。そんな人じゃないのは分かっている。でも自分は明らかに『障害』だ。あの人と貴方にとっては邪魔な存在でしかない。いらない、存在でしかない。
「…いらないの?…お義父さま……」
そんな事はない。分かっている、貴方があたし見つけてくれた。貴方だけがあたしに気付いて、そして手を差し伸べてくれた。貴方だけが、あたしに与えてくれた。ほしかったものを、ただひとつほしかったものを。だから。だからそれ以上ねだるのは、ただの我が侭でしかない。それ以上を望むのは、自分勝手な我が侭でしかない。けれども。けれども、あたしは。
「…お義父さま…あたしは……」
大きな手が、好き。貴方の大きくて厚くて、そして優しい手が好き。何よりも、好き。その手があたしに触れてくれる瞬間が、何よりも好き。
「…あたしは…あっ……」
あたしは無意識に自分の手を自らの胸に重ねていた。まだ少女の膨らみしかない、この胸に。
「…あぁっ…あたしは…お義父さま……」
薄い胸。あのひとの胸は大きくてそして柔らかそうだった。こんな貧弱な乳房とは違う。こんなにも薄い胸とは。
それでもあたしは胸に指を這わした。微かな膨らみを鷲掴みにして、尖った乳首を指の腹で擦る。それだけで下半身が熱くなってくるのが分かった。
「…あぁんっ…あぁ…お義父さま…あたし……」
この手が貴方だったら。この指が貴方だったら。あの大きな手があたしの胸を掴んでくれたら。貴方の指があたしの胸の果実を転がしてくれたなら。貴方の、手が。
「…あたし…あたし…あぁ…ぁっ……」
胸では足りなくて、あたしは指を下半身の茂みに伸ばした。薄い茂みを掻き分け、秘所に指を入れる。そこは既にじっとりと濡れ、あたしの指に愛液を滴らせた。
「…好き…お義父さまが…好き…あぁぁ……」
くちゅくちゅと濡れた音が室内に響く。それだけであたしの身体は火照った。抵抗する内壁を掻き分けながら、一番感じる個所を捜し当てる。既にソコはぷくりと膨れ上がっていて、あたしは躊躇わずにソレをぎゅっと摘んだ。摘んだ瞬間に、身体に電流が走ったような感覚に襲われる。
「…お義父さま…お義父さま…あぁぁっ……」
好き。好き、貴方だけが好き。初めて逢った時から。その手が差し出された時から。ずっとずっと好きだった。
貴方だけがくれたの。貴方だけがあたしにくれたの。優しさを、愛情を、あたしがほしかったものを。貴方だけが、くれたの。
「…ああんっ…あぁぁっ…お義父さま…おとう…さまっ…あぁぁっ……」
暖かい腕。優しい手。包み込む眼差し。全部、全部、貴方だけがくれた。貴方だけがあたしに、与えてくれた。
「…お義父さま…もぉ…あたし…あたしっ…あああっ……」
知らなかった事も、分からなかった事も全部。全部、与えてくれたのは貴方。貴方だけだった。あたしの『初めて』は全て、貴方が教えてくれた。
「…もぉ…ダメ…っ…あああああっ!!!!」
――――貴方だけが、あたしに、教えてくれた事だった。



流れてくるあたたかいもの。そっと、溢れてくるもの。
やさしいひかりと、あたたかいばしょ。その全部が。
全部が、貴方だけが、あたしに与えてくれたの。



「…お義父さま…お義父さま……」



手のひらに大量の蜜を滴らせながら、あたしは涙が零れるのを止められなかった。貴方のあたしに対する想いを穢してしまった事に。大事に、大切に、してくれている貴方の想いを。
貴方の想いをこんな風に穢してしまった、自分に。そんな自分に、身体を震わせて泣いた。